好きな人が好きなものをいつの間にか好きになってる。
今まで興味もなかったものなのに、好きな人が好んでいるものだから。そんな理由で夢中になっている。



任務が終わって談話室でくつろぐときに必ずブラックコーヒーを飲んでいる。
なんとなく気だるそうにしているその姿をいつもこっそり覗く。
「(何しても絵になる人だよなぁ……)」


















今日は任務もないため、今はマーモンとベルと談話室でお茶をしている。
なんとなく、スクアーロがいつも飲んでいるブラックコーヒーを飲みたくなった。
いつもはココアとか、甘いものしか飲まないけどやっぱり好きな人が飲んでいるものには興味がある。
ブラックコーヒーを飲むのは決まってスクアーロがいないとき。
だって恥ずかしいし。
普段の私なら、絶対に飲むことがないものだからこっそりとばれないように味わう。
「(苦っ)」
こんな苦いものを美味しそうに飲んでいる彼はずっと大人で、子供の私なんかはまだまだ相手にされないのはわかってる。
それでも彼に少しでも近付きたくて、苦味を飲み込む。
勢いよく飲み込んだせいで、嚥下しきれずむせ込んでしまう。
「げほっ」
「大丈夫かい?今日は珍しくコーヒーなんか飲んでるけど何かあったのかい。」
なら特別に相談に乗ってあげるよ、なんて言いながらマーモンは膝の上にちょこんと乗っかってきた。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。」
スクアーロに恋してるなんて口が裂けても言えない。
私たちは暗殺者だし、色恋に感けて良い存在じゃない。
彼だってきっとそう思うはずだ。ましてや彼はボスのために、仕事にストイックなのだ。だからこのまま憧れのままで良いんだ。
「それなら良いけど、きっと大丈夫だよ。」
「?」
って意外と健気なところあるよなぁ。王子なら気付いちゃうけど、相手があの鈍感だからなぁ。」
ニヤニヤしているベルの一言にボッと顔が熱くなる。
なんでベルはそんなこと知ってるの?!
自分でも顔が真っ赤になってるのがわかる。
ってば照れちゃって可愛いじゃん。王子にしとけよ?」
そう言って頭をクシャクシャっと撫でてくる。
「だーかーらー、勝手に話を進めないでよ。」
「そうだよ、ベル。が困ってるじゃないか。」
この二人、私の気持ちを知っているのか。
マーモンはともかく、ベルは絶対に面白がってる。
「もう放っておいてよ。」
「拗ねんなよー、。」
ベルに抱きしめられて、これでもかって位頭をワシャワシャされる。
あーあ、せっかく今日は髪の毛セットしてみたのに、これじゃ台無しだ。
別に出かける予定なんてないけど、せっかくの休みだ。たまにはおしゃれでもしないと。
「まったくお前らはいつも一緒にいるんだなぁ。」
いきなり入ってきた声に驚いて視線を向ける。
「おかえり、スクアーロ。」
同じようにマーモンも彼の方を見上げ、声をかける。
突然帰ってきた彼に驚きと、休みの日なのに会えた嬉しさで、今の私は変な顔をしていると思う。
ベルがなんとなくこっちを見てシシッなんて笑っているが、そんなの気にしない。
今日の天気は雨だ。
任務から帰ってきたスクアーロの髪の毛は雨で濡れている。
「濡れたままじゃ風邪ひいちゃうよー。」
そう言って手元にあるタオルを彼に投げる。
ありがとなぁと受け取り、髪の毛をガシガシと拭く彼に思わず見入ってしまう。
そんな私の視線に気付いたのか、スクアーロがこちらに近づいてくる。
手が伸びてくるのが見えて、突然のことに驚き眼をつぶると手の中にあったコーヒーカップが彼の手に渡っていた。
がブラックなんて珍しいなぁ。」
そう言ってまだ湯気の立つコーヒーを一口含む。
あぁ、やっぱりカッコいいな。
そんなことを思っていたら、ベルの騒ぎ出した声で現実に引き戻される。
「(スクアーロと間接キスしちゃった!)」
体中の血液が沸騰したんじゃないかと思うくらい、全身が熱い。
ドキドキドキドキ、心拍が痛いくらいに耳に響いてくる。
ベルにからかわれた時と比じゃないくらい、私の顔は真っ赤だろう。
恥ずかしくなって下を向いていると、テーブルにコツンと私のコーヒーカップが置かれる。
中身は空っぽ。
「ごちそうさん。コーヒー、旨かったぜぇ。」
頭をポンポンと軽く叩かれ、2人に聞こえないような小さな声で、そっとされた彼からの耳打ちで私の頭はパンクしてしまった。















「今日の髪型、似合ってるぞぉ。」













そんなこと言われたら、自惚れちゃうよ。
今まで憧れで、遠くから見ているだけだったのに今日のこの数分の間に許容範囲を裕に超えてしまった。
刺激的な瞬間に中てられてしまい、苦みに溺れ私は息することすらを忘れてしまった。








スクアーロは変にスマートで、変に不器用であってほしいと切に願います。
2012,5