着替えもそこそこに食堂へ朝ごはんを食べに行く。
少し出遅れたせいか、食堂は半分くらい埋まっていた。
結局、2日目の夜は誠二に捕まり、ゲーム三昧だった。
マジで寝不足。欠伸が止まらない。クマができた。
でもそのおかげで武蔵森の人やゲーム大好きな人たちと仲良くなることができた。
たまにはそんなことがあってもいいだろう。
でも眠い。
「お前色気なさすぎ。せっかく可愛いのにでっかい口あけて欠伸すんな。」
誰だ、朝一番でこんな失礼なことを言ってくる奴は。
「うるせー鳴ちゃん。昨日私に勝てなかったくせになんて生意気な口をきくんだ。」
鳴海は昨日ゲームで叩きのめしたため、私の方が上。
せっかくってなんだ、せっかくって。色気がないって確か初日も言われたな。
「それは昨日の話だ。今日は今日でリセットされるんだよ。」
「……自分の負けを認められない男ってちっちゃいと思いません?ねぇ兵ちゃん。」
「同感。」
隣でサラダを盛っている設楽に同意を求めると、この男もまた眠たそうにうなずく。
こんなに眠そうにしていていいのか?
仮にもスポーツ少年がゲームで寝不足になって、本業に支障が出てしまったらまずいだろう。
思っていたことが顔に出たのか、「俺は朝が弱いだけだから、大丈夫。」と返事が返ってきた。
「昨日から思ってたけど、兵ちゃんっていい男だと思うよ。」
「おぅ。」
そういう素気ないところもポイントが高いと思う。
何よりも昨日の鳴海の扱い方には感心してしまった。
いい男、というよりもいい保護者の間違いか。
「なんで俺を差し置いてと設楽はいい感じになってるわけ。」
グイっと間に入ってきたのは若菜。
「おはよー、若菜さん。」
ちなみに若菜には昨日勝てなかったから、さん付け。
「だーかーらー!!若菜さんとか距離感感じちゃうから、結人って呼んでよ。」
昨日からずっとそんな感じ。
これはこれで面白いからそのままで続けている。
「むしろ若菜師匠って呼びたいくらいだから、名前なんかで呼べるわけないじゃん。」
もうネタだよね、若菜が師匠とか。
あぁーと頭を抱えて唸っている若菜を放っておき、もう食事を始めている飛葉のテーブルへ向かう。
「おはよ。一緒に食べてもいい?」
返事を聞く前に座ってるけど。
「お前、いつの間にあんなにいろんな奴を手なずけてたんだな。」
感心するわ、と白米を食べながらマサキがこっちに目線を向ける。
「手なずけたって程じゃないよ。ゲームで上下関係をはっきりさせただけ。」
「そういえばゲーム得意だもんな。」
昔から兄貴とゲームばっかりしていたものだから、いつの間にか得意になっていた。
それがこんな形で出てくるとは思わなかったけど。
「そういえば翼さんは?もうご飯終わっちゃったの?」
いつもなら居るはずの翼さんの姿が見えない。
「翼なら監督に呼ばれて、さっきいったとこ。」
「監督って玲さん?」
こんな朝早くからご苦労なこった。
玲さんもあんな宇宙人の下でよく我慢できるよなぁ。私なら無理。
「なんでもこの合宿が終わった後の練習についてとかって。」
まだ合宿中だというのに、もうそんなことを話し合うのか。
「大変だねぇ。」
そう言ってサラダを口にほうばった。












今日のマネージャーとしての仕事は一段落。
玲さんの赦しをもらってこの合宿のまとめとなる試合を見学することとなった。
みんなうまいのはよくわかる。
あんなに普段はふざけていても、サッカーをしている時はキラキラしている。
あ、翼さんだ。
ふと気がつけば翼さんを目で追っている。
そういえば今日は一言もしゃべってないなぁ……
じっと見ていたのがばれたのか、翼さんがこっちを見た。
でも、その視線はすぐに目の前のボールに戻されている。
あ、ミドルレンジから打った。惜しい。
やっぱり翼さんのサッカーはワクワクする。
翼さんが打ったシュートは惜しくもキーパーにはじかれた。
そして交代。
……もう少し見られると思ったのに残念。
翼さんは選抜メンバーに確定な訳だ。
このゲームのルールがみんなに知れ渡った途端、空気が変わった。
これはこれで見ごたえのあるゲームだわ。
こんな面白い方法を思いついたのはきっとうちの監督だろう。
「……さすがだわ。」
「俺のこと?」
「うぉ!びっくりした。」
後ろからいきなり声をかけられて思わず変な声を出してしまった。
ドン、と隣に腰をかけたのは翼さんとともに交代を受けた誠二だった。
「ちゃんと俺のプレー見てくれてた?」
顔を覗きこまれて思わず後ろに引いてしまう。
「見てたよ。てか顔近いから。」
「あのゴール、マネージャー業を頑張ってるちゃんにプレゼント。」
ニカッと笑い、頭を撫でられる。
「あ、ありがと。」
なんだか恥ずかしくなりドキマギしてしまう。
ゴールをプレゼントだなんてクサ過ぎる。
でもこんなことを笑顔でさらっと言えてしまうのは誠二のキャラクターなのだろう。
「照れてるちゃんかわいー。」
「……誠二って女の子慣れ半端ないね。」
「全然慣れてないって。学校だって男女別々だから女の子とほとんど話したことないし。」
なんか意外だ。でもまぁ誠二のことを周りの女の子たちが放っておくわけがない。
あ、嘘だって思ってるでしょー。なんてケラケラ笑っている。
女の子に慣れていないことは百歩譲って認めるとして、これは天性の女誑しだ。間違いない。
「なーに2人でいい雰囲気になってるんだよ。」
「上原かぁ、邪魔しにくるなよー。」
「お疲れー、そしておめでとー。」
ちなみに上原くんは昨日のゲーム仲間。ゲームを交代されたということは彼も選抜確定だ。
ありがとな、と隣に座る。
「ねぇ、俺おめでとうって言われてない。」
「あー誠二もおめでと。」
そういえばもうそろそろドリンク足さなきゃだ。
「じゃあ私は仕事に戻るからね。2人で仲良く試合を見てるんだよ。」
なんだかブーブー言ってるのは聞こえるが、聞こえない振りをしよう。
ちゃんと仕事はしないと、あとで文句を言われるのは私だからね。
やることはやらないと。




(なんだかスッキリしないのは、きっと気のせい。)