懐かしい人との再会は嬉しさ半分、辛さ半分。
奥底にしまっていたいろいろな思い出まで一緒に引っ張り出されてしまうから。
5
「マネージャーのです。よろしくどうぞ。」
挨拶もそこそこに仕事に戻ると、後ろからもっと色気のある挨拶ができないのかとド突かれた。
「素っ気なさすぎ。本当にお前って面白いよな。」
普通未来のプロサッカー選手を前にあんな挨拶できないよな。そういって楽しそうに私の隣で楽しそうに笑っている彼を一睨み。
「どうせ素気ないし色気もないですよーだ。翼さんこそサボってていいんですか?」
サボるくらいなら手伝え。
私は黙々と、たった一人でたくさんのビブスを洗濯をしてるというのに。
なんでこんなに汗臭くいものをたくさん寄こすんだ。
「今は休憩中だからいいの。」
「そうですか。第一未来のプロの選手を前にどんな挨拶があるっていうんですか。」
愛想をふりまく意味がわからない。そう言って聞いてみると
普通は誰かに気に入られようと張り切るもんじゃないの、とさも当たり前のように言われた。
翼さんは今までそれに何回も遭遇されていましたね。すっかり忘れてましたよ。
「私がそんなキャラだったら、間違いなくここにはいないでしょうね。」
それを踏まえての監督の人選だと信じたい。そうじゃなきゃこんな所にまで来て雑用係なんて。
「確かにそうだね。」
お前には無理、とまた楽しそうに笑っている。
本当に失礼な人だ。これが直樹だったら絶対に殴ってるね、うん。
「あー、いた。ちゃん発見。」
いきなり名前を呼ばれて振り向くと、そこにはどこかで見た顔。
この明るい泣きボクロ。
「あぁ、武蔵森のFW君だ。」
この間の大会の準決勝であたったから見たことがあったんだ。よく思い出した、私。
「俺のこと知ってるの?超嬉しい。」
そう言ってニコニコしている彼についつられて笑ってしまう。
よく笑う人だなぁ。
「俺は藤代誠二。誠二って呼んで。」
じゃあまた後で話そうねー、と颯爽と行ってしまった。
「爽やかでスポーツ少年っぽいですね。」
明らかにウチにはいないタイプだ。
「はあーゆうのがタイプなの?」
「そんなことはないですけど。」
タイプが分かるほど、人を好きになったことないかも。
ふーん、と興味なさそうにしている翼さん。
タイプなんて考えたことないけど、きっと翼さんみたいな人を好きになったら楽しいんだろうな。
あ、でもみんなから好かれてるから大変か。
「じゃあ俺も練習に戻るから。」
頭をポンと叩かれ思考がプツンと途切れる。
「…あぁ、いってらっしゃい。」
―――私も自分の仕事に戻らないと。
マネージャーの仕事が終わり、フロアでボーっとしているといきなり声をかけられた。
「!」
聴きなれない声にびっくりして振り向くと、そこには懐かしい顔。
「小鉄じゃん。なんでいるの?」
「それはこっちのセリフだ。なんでお前がこの合宿に参加してるんだよ。」
小鉄は飛葉に引っ越す前にいた、学校でのクラスメイト。
―――てっきりサッカーからは離れたのかと思ってた。
そう言って小鉄は少しさみしそうに笑った。
「それはないから大丈夫。まさか小鉄にこんなところで会えるとは思わなかったよ。」
だからそんなに悲しそうに笑わないで。
忘れていた古傷が心の奥底で疼いた。
ジン、と目の奥が熱くなってくる―――
「久し振りだな。元気そうで安心した。」
「小鉄もサッカー続けてくれててよかったよ。こうして会えたのも嬉しいし。」
それから引っ越してからのこの数か月のことを話して、私達は別れた。
「はぁ……」
一人部屋に戻り、出てくるのはため息。
なんでこんなタイミングで出てくるんだろう。
やっと自分の中に終うことが出来てきたのに。
忘れたい、というよりは良い思い出に変換してそのまま―――
なんて都合の良いように頑張ってきたのに。
それは簡単に崩れ去ってしまって、一気に彼との想い出と涙が溢れ出てくる。
悲しいとか、そういったものではないけどやっぱり辛いものではあった。
あんなに真剣に他人を想ったことはないから。
(きっともうこんなに他人を想って泣くこともないのだと思う……)